共有名義の不動産は、建替えや売却などの意思決定を単独で行うことができず、共有者の同意を得なければなりません。
しかし、自分の共有持分は自由に処分可能です。具体的な処分方法としては、売却や贈与の他に「持分放棄(共有持分の放棄)」という選択肢があります。
持分放棄は、その名の通り自分の持分を放棄することによって、共有名義から外れる方法です。
他の共有者に意思表示をするだけで成立するというデメリットがある一方、持分を無償で手放すというデメリットもあります。
共有持分は専門の買取業者に売却することもできるので、対価が欲しいときは売却、無償で他の共有者に譲りたいときは放棄と、状況に応じて使い分けましょう。

- 持分放棄をすると、放棄された持分は他共有者に帰属する。
- 持分放棄は自分の意思のみで成立するが、持分放棄に伴う登記は他共有者と協力する必要がある。
- 「共有持分の処分」が目的なら、専門の買取業者に売却したほうがスピーディー。
持分を放棄するとどうなる?
持分放棄をすると、共有持分は自分のものではなくなります。
放棄された持分の扱いについて、押さえておきたいポイントは3つです。
- 放棄された持分は他の共有者の持分に帰属する
- 他の共有者に贈与税が課される
- 持分放棄した年は固定資産税の納税が必要
1つずつ詳しく見ていきましょう。
①放棄された持分は他の共有者の持分に帰属する
放棄された持分は、他の共有者に帰属することになります。
他の共有者が複数いる場合、それぞれの共有持分割合に応じて按分します。
BとCの持分割合を比較すると同じ割合(1/2ずつ)なので、1/3(もともとの持分割合)×1/2(Aが放棄した後の持分割合)=1/6ずつの持分がBとCそれぞれに帰属します。
②他の共有者に贈与税が課される
持分放棄すると他の共有者に権利が移るので、税法上は贈与として扱われます。
共有に属する財産の共有者の1人が、その持分を放棄(相続の放棄を除く。)したとき、又は死亡した場合においてその者の相続人がないときは、その者に係る持分は、他の共有者がその持分に応じ贈与又は遺贈により取得したものとして取り扱うものとする。
そのため他の共有者は取得した持分の評価額に応じて、贈与税を支払わなければなりません。
贈与税の税率は最大55%で他の共有者の負担も大きいため、事前に税理士に相談しましょう。
持分放棄と贈与の違い
持分放棄と贈与は、どちらも贈与税が課税されるため似ていますが、違いがあります。
違いの一つは「持分を引き継ぐ相手を選べるか否か」です。
持分放棄の場合は各共有者の持分割合に応じて帰属されるので、放棄した本人や共有者の希望は反映されません。
一方で贈与の場合は特定の1人や第三者など、引き継ぐ相手とその割合を選ぶことができます。
また持分放棄の場合は各共有者の同意が必要ありませんが、贈与の場合は引き継ぐ相手に同意を得る必要がある点も大きな違いです。
贈与税の計算方法
贈与税は次のような計算式で求められます。
税率と控除額は、贈与財産が特例贈与財産か一般贈与財産かで異なります。
特例贈与財産は、直系尊属(祖父母や父母)から20歳以上の人(子や孫)への贈与で、それ以外を一般贈与財産といいます。
それぞれの税率と控除額は次のとおりです。
③持分放棄した年は固定資産税の納税が必要
固定資産税はその年の1月1日時点の所有者が納税義務を負います。
持分放棄をして登記の名義変更を終えていても、その年の固定資産税は納税しなければなりません。
固定資産税の計算方法
固定資産税の計算式は次のとおりです。
税率は基本的に1.4%ですが、自治に体によって異なる場合があるので確認しましょう。
固定資産税の支払いは年4回に分けて納めるか、一括で納めるか選択できます。
持分放棄のやり方
持分放棄するためには他の共有者への意思表示と登記申請が必要です。
先ほどご説明したとおり、放棄された持分は他の共有者の名義に変更されます。
そのため登記申請の際は他の共有者の押印や本人書類の提出など協力を求めなければなりません。
他の共有者への伝え方を誤ると、協力してもらえない恐れがあるので注意しましょう。
持分放棄の流れは次の通りです。
- 他の共有者に口頭で持分放棄の意思を伝える
- 内容証明郵便で再度持分放棄の意思を通知する
- 持分権移転登記を申請する
1つずつ詳しく見ていきましょう。
①他の共有者に口頭で持分放棄の意思を伝える
持分放棄の意思を確実に伝えるためには、郵便などで通知するのが基本です。
しかし、いきなり郵便で持分放棄の意思を知らされても、他の共有者は困惑してしまいます。
郵便を送る前に口頭でコミュニケーションをとっておけば、余計な不安や不信感を和らげる効果が期待できます。
②内容証明郵便で再度持分放棄の意思を通知する
他の共有者に持分放棄の意思を正式に伝えます。
このとき、通知した事実を公的に証明できる内容証明郵便を利用しましょう。
後々共有者間で言った言わないで揉めるリスクを回避できます。
③持分権移転登記を申請する
意思表示の後は登記申請が必要です。
登記の名義変更を行わなければ、持分放棄したことを第三者に主張できません。
共有持分の権利を移転するので、登記目的は「持分権移転登記」となります。
登記には共有者全員の協力が必要
持分放棄の場合、持分放棄した人(登記義務者)と他の共有者(登記権利者)が共同で登記申請を行うのが原則です。
具体的には申請書類への押印や、住民票・本人確認書類の提出などの協力を求めることになります。
ただし実際に当事者が揃って法務局へ登記申請に行くことは少なく、司法書士に手続きを委任することがほとんどです。
共有者が協力しない場合は登記引取請求訴訟を起こす
放棄された持分を取得すると贈与税がかかってしまうため、共有者が登記申請に協力しない可能性があります。
このような場合は「登記引取請求訴訟」という解決方法があります。
登記引取請求訴訟とは、登記に協力しない共有者に対して「登記名義を引き取ってほしい」と訴える手続きです。
もともと放棄された持分は他の共有者に帰属することが民法で定められているため、登記引取請求訴訟は原則棄却されません。
裁判所が訴訟を認めれば、単独で登記することが可能になります。
ただし訴訟を起こしてから判決までは半年から1年程度と長い時間を要するので、すぐに解決することは難しいでしょう。
登記申請に必要な書類
持分権移転登記をするときは以下の書類を提出しなければなりません。
- 登記済証(権利証)または登記識別情報
- 印鑑証明書(発行から3ヶ月以内)
- 固定資産税評価証明書
- 実印
- 本人確認書類(運転免許証やパスポートなど)
現在登記されている情報の中で、氏名や住所に変更がある場合は追加で以下の資料提出も必要です。
- 住民票または戸籍の附票
- 地番変更証明書など
氏名に変更がある場合
- 戸籍謄本
- 住民票または戸籍の附票
- 住民票
- 印鑑
- 本人確認書類(運転免許証、パスポートなど)
登記申請にかかる費用
登記申請にかかる主な費用は登録免許税です。
まず持分権移転登記の場合の登録免許税は、固定資産評価額の2%で計算されます。
固定資産評価額は、固定資産税の課税明細などで確認することが可能です。
仮に固定資産評価額5,000万円の住宅の持分1/5を放棄すると、登録免許税は20万円になります。
5,000万円×1/5×2%=20万円
登記手続きを司法書士に依頼する場合は、司法書士への報酬も支払わなければなりません。
司法書士報酬は事務所によって金額が異なるため一概にいえませんが、3~5万円程度が相場と考えておきましょう。
その他、必要書類を公的機関で発行する手数料などもかかります。
持分放棄はいつでも自由にできる
持分放棄は自分の意思さえあれば実現できるため、すぐに共有名義を解消したい人にはメリットの大きい方法です。
共有不動産を持っている人はいつでも自由に行えますが、持分放棄ができないケースもあります。
次の項目からは持分放棄ができるケース・できないケースをまとめました。
共有持分の放棄は早い者勝ち
共有不動産は1人が放棄しても他の共有者が管理するという前提のもと持分放棄が認められています。
自分以外の共有者全員が持分放棄の意思表示をした場合、自分が持分放棄をすることはできなくなります。
持分放棄をしたいのであれば、他の共有者よりも先に意思表示・登記をしておかなければなりません。
相続前の持分放棄もできる(相続放棄)
共有持分を相続する前に、持分放棄することも可能です。
これを相続放棄といい、相続税や負債の支払いがなくなることや他の共有者とのトラブルを回避できるなど、さまざまなメリットがあります。
相続放棄された持分は先程と同様、他の共有者の持分に帰属することになります。
ただし、相続放棄は共有持分だけでなく、その他の相続財産もすべて放棄する必要があるので注意しましょう。
相続放棄については、下記の関連記事でも詳しく解説しています。

農地も農地法の許可なく持分放棄できる
農地法の定めによると、農地の名義を変更する場合は農業委員会の許可を受けなければなりません。
農地又は採草放牧地について所有権を移転し、又は地上権、永小作権、質権、使用貸借による権利、賃借権若しくはその他の使用及び収益を目的とする権利を設定し、若しくは移転する場合には、政令で定めるところにより、当事者が農業委員会の許可を受けなければならない。
このような規制を設けているのは、農地が農業者以外に取得されるのを防ぎ、生産性の高い農業者に利用してもらうことが目的です。
共有している農地を売買・贈与する場合も同様に許可が必要ですが、持分放棄の場合は許可が不要です。
放棄された持分は自動的に他の共有者に移転するので、わざわざ許可を得る必要がないとされています。
区分所有建物の敷地利用権は持分放棄できない
マンションなどの区分所有建物を取得すると、専有部分の区分所有権と敷地利用権が発生します。
敷地利用権とは、区分所有建物が建っている土地を使う権利です。
区分所有法によると、敷地利用権は専有部分と分離して処分することができません。
敷地利用権が数人で有する所有権その他の権利である場合には、区分所有者は、その有する専有部分とその専有部分に係る敷地利用権とを分離して処分することができない。
そのため区分所有建物の敷地利用権は、持分放棄が認められないので注意しましょう。
持分放棄すべきケースとは?
不動産の共有は何かとトラブルが起きやすい状態なので、長く持ち続けずに処分したほうが負担を減らせます。
共有持分の処分方法は複数ありますが、次のようなケースは持分放棄を選択したほうが良いでしょう。
- ①共有者との関係が悪化している
- ②共有持分の資産価値が低く売れにくい
- ③共有者が増えていて収拾がつかない
- ④固定資産税や修繕費などの支出を負担したくない
1つずつ詳しく見ていきましょう。
ケース①共有者との関係が悪化している
共有者同士の意見の対立などで人間関係が悪化してしまうことも少なくありません。
そのような場合、話し合いを持ちかけても取り合ってもらえない可能性があります。
持分放棄の場合、共有者と絶縁状態なのであれば直接連絡せずに自分の意思だけで実行可能です。
登記申請の協力を拒否されても、登記引取請求訴訟が認められれば単独申請も可能になるので、問題ありません。
ケース②共有持分の資産価値が低く売れにくい
一般的に共有持分はリスクが高いイメージがあり、あまり需要がありません。
さらに対象不動産の立地が良くない場合、購入検討者すら見つからない状態が懸念されます。
「売りに出している時間がもったいない」と感じる人は、持分放棄を検討してみてはいかがでしょうか。
ケース③共有者が増えていて収拾がつかない
共有持分は、相続を繰り返すことで共有者が増えていき、共有持分も細かく分かれていきます。
共有者が増えると、共有不動産の管理・処分にあたって必要な話し合いが困難になります。
顔も所在も知らない遠縁の親類が共有者になっており、権利関係の把握ができなくなるのです。
共有者が増えすぎて収集がつかない場合、持分放棄で共有名義から抜け出すことも検討してみるとよいでしょう。
ケース④固定資産税や修繕費などの支出を負担したくない
共有持分を相続すると、共有者は持分割合に応じて固定資産税や都市計画税、修繕費などの支出を負担します。
仮に被相続人の遺産をすべてピックアップして多少プラスという状況では、固定資産税や都市計画税、修繕費などの支出によって相続したプラスの遺産がすぐになくなる可能性もあります。
そのようなケースでは、最初から相続放棄を選択するのも選択肢の1つです。
しかし、相続してからすぐに共有持分だけ売却しても、売却後の固定資産税や都市計画税、修繕費などを負担する必要はありません。
共有持分の売却により得られる現金が多い場合には、相続後に共有持分を売却することを検討してみましょう。
「共有持分の処分」が目的なら放棄より売却のほうがスピーディー
持分を放棄すると、金銭などの対価を一切もらうことなく権利を失います。
「他の共有者に共有持分を譲りたい」という目的であれば持分放棄が適していますが、共有持分を処分し、共有名義から抜け出すことが主な目的なら、持分売却のほうをおすすめします。
持分売却なら、共有持分の資産価値に応じた現金を取得できます。専門の買取業者に依頼すれば、最短2日で現金化することも可能です。
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持分売却は他共有者の同意や協力がいらない
持分売却も、持分放棄と同様に他の共有者の同意は不要です。自分の意思だけで売却でき、売却先も自由に決めることができます。
また、登記に関しては共有者の協力が不要であり、持分放棄のように「共有者が登記を拒否して手続きが進まない」という事態が起こりません。
共有者に通知する義務もないので、共有者と一切関わらずに持分売却をすることも可能です。
共有持分を現金化できる
持分放棄とは違い、共有持分を売却することによって現金に換えられます。
持分放棄は無償で資産を手放すのと同じ行為なので、自分にとって損失であるともいえます。
持分売却で現金を得れば、新たな不動産の購入費用に充てたり、他の投資や生活費などの資金にすることが可能です。
共有持分の処分をしつつ損失を防ぐためには、持分放棄より持分売却を選んだほうが良いでしょう。
共有持分専門買取業者であれば早期・高額買取が可能
共有持分の売却で問題となるのが、需要の低さからくる売りにくさです。
共有持分だけを取得しても不動産の利用・管理には制限があるので、第三者が共有持分を買い取るメリットはあまりありません。需要が低いため、一般的な不動産会社では取り扱いができないケースもあります。
そこでおすすめなのが、共有持分専門の買取業者です。共有持分を専門に取り扱うことで売買の知識や経験を蓄積しており、短期間での高額買取を実現しています。
不動産会社が自社で直接買い取るため支払いも現金一括となり、早ければ2日で共有持分を現金化することも可能です。
共有持分を手間なく、高値で売却したいなら、まずは無料査定で自分の共有持分がいくらになるのか調べてみましょう。
まとめ
持分放棄は自分の意思表示だけで効力が発生し、放棄された持分は他の共有者に帰属します。
しかし、第三者に持分放棄の事実を証明するためにはこれだけでは不十分で、登記手続きが必要です。持分放棄の登記手続きは、他の共有者と共同で申請しなければなりません。
放棄された持分を取得すると贈与税が発生するため、他の共有者が登記申請に協力しないケースもあるでしょう。訴訟による登記も可能ですが、判決までに時間がかかることが予想されます。
そのため、共有持分の処分が目的なら、他共有者と関わらずに実行できる「持分売却」がおすすめです。
共有持分専門買取業者に依頼すればスピーディーな売却ができるので、共有持分を手放す理由や、状況に応じて放棄・売却を選択しましょう。
共有持分の放棄に関するQ&A
放棄した持分は自分のものではなくなり、他の共有者の持分になります。他の共有者が複数人入る場合は、それぞれの持分に応じて帰属します。
共有名義の不動産を持っている人であれば、基本的に放棄できます。ただし自分以外の共有者全員が共有持分を放棄する場合は、放棄することができません。共有持分を放棄したいのであれば、他の共有者よりも先に意思表示をすることが大切です。
持分放棄のメリットは、自分の意思だけで共有名義を解消できる点です。不動産を共有していると他の共有者の同意が必要になる場面が多く、協議の過程でトラブルが発生しやすくなります。共有名義を早く解消したい人にとって、持分放棄は有効な解決策のひとつといえるでしょう。
登記をしないと、共有持分の名義が他の共有者へ移転した事実を法的に証明することができません。登記簿上の名義は自分のままなので固定資産税の請求が続いてしまうなど、さまざまな問題が発生してしまいます。
そのような場合は、登記引取請求訴訟を起こす方法が有効です。裁判所に認められれば、強制的に登記手続きを進められます。
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